2014/02/08

「白暮のクロニクル 1巻」ゆうきまさみ

白暮のクロニクル 1 (ビッグ コミックス)
ゆうき まさみ
小学館 (2014-01-30)

ゆうきまさみの新作は吸血鬼探偵物。「息長(オキナガ)」と呼ばれる不老不死の人間?が存在する世界を舞台に、12年に一度、未年になると若い女性の内蔵を抜き取り殺害する「ひつじ年の殺人者」の謎を、オキナガの見た目少年、実年齢88歳の安楽椅子探偵雪村魁と、厚生労働省でオキナガを担当する「夜間衛生管理課」の新人伏木あかりの凸凹コンビが追うという物語のようだが、例によって警察や厚生労働省という巨大組織の中に渦巻く大きな陰謀と権謀術数の匂いがプンプンとする展開。帯の惹句にある作者本人のコメントからすると「新境地」らしいけれど、読んでる側からすると見た目は変わってもやってることはいつもと同じ。さえない感じの主人公たちが延々と脱力系の会話をしてる中で、巨大な陰謀が進行するというパターン。でも、それがゆうきまさみの真骨頂であり最大の魅力なのだからそれはそれで全然構わない。

1巻では「オキナガ」を狙った連続殺人事件がコトの発端として描かれるのだが、犯人解明は割りとあっさりで、やはりミステリをやるのではなくサスペンス主体の展開で行くのだろうか。しかし、主人公でワトソン役になる伏木あかりはいろいろ出自にひつじ殺し事件との因縁がありそうな感じではあるが、キャッチーな要素というと背が高いことと眉毛太いぐらいで、「バーディー」の千川つとむ以上に華のない主人公だなぁ。

2014/02/07

「ヒル 5巻」今井 大輔

ヒル  5 (BUNCH COMICS)
ヒル 5 (BUNCH COMICS)
posted with amazlet at 14.02.07
今井 大輔
新潮社 (2013-10-09)

他人の留守宅に侵入し居住者に気づかれないように寄生して生活する「ヒル」の物語。これにて完結。

巧くまとめたなという感じではあるけれど、せっかくの「ヒル」というアイデアをモラトリアムな少女と少年が成長する話+バイオレンスという些かありがちな物語に落としこんでしまったのはちょっと残念な気がする。個人的には様々な「ヒル」が登場する連作短編のようなスタイルの方が、この「ヒル」という秀逸なアイデアを巧く見せられたんじゃないかと思った。まぁ、それは個人的な願望だとしても、この作品には寄生する側である「ヒル」側の視点ばかりで、寄生される側である居住者の視点がほとんど皆無なのは勿体無い。物語がそうそうにヒル社会内での抗争主体になってしまったため、他の視点を入れる余地が無くなったということかもしれないけれど、そういう外部の視点をもっと入れることで、社会に寄生して生きるヒルという人種の持つ社会的な問題提起がいろいろ見えてきたんじゃないかと思う。そういう外部の視点がないので「いろいろありましたけど大人になりました」的な非常に個人的な物語で終わってしまってるんだな。それが悪いという訳ではないけど、やっぱり折角のアイデアなのに勿体ないなぁと思ってしまう。

2014/02/05

「SHORT PEACE」 2013

SHORT PEACE スペシャルエディション [Blu-ray]
バンダイビジュアル (2014-01-16)
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2013年に公開された日本のアニメーション作品。

大友克洋「火要鎮」、森田修平「九十九」、安藤裕章「GAMBO」、カトキハジメ「武器よさらば」の短編アニメーション4本に、森本晃司によるオープニング映像を付したオムニバス作品。

「オープニング」森本晃司

元「STUDIO 4℃」所属で「音響生命体ノイズマン」や「彼女の想いで MAGNETIC ROSE」などで知られる森本晃司のオープニングは「不思議の国のアリス」をモチーフにしたイメージ映像で、いかにも森本晃司といった感じ。

「火要鎮」大友克洋

記憶が定かではないけど大友克洋の同名の短編作品があって一応それが原作ということになるんだろうか?親の決めた結婚を前に火消しに憧れる隣の家の息子への想いを断ち切れない娘が火事を起こすという話。

主人公の娘を描く前半は絵巻(オープニングはそのまんま絵巻だ)などによく見られる斜め上からの遠近法を用いない鳥観アングルを多用したり、人物の描写も美人画を思わせるものだったり日本画を強く意識した画面づくりが独特の雰囲気を作り上げている。着物の表現とか地味な展開だけど映像的には目を見張るものがある。後半は一転して大火事とそれに対処する火消しの活躍を描くスペクタクル。映像表現はこちらも素晴らしく江戸の町中を逃げ惑う町民を掻き分けてて進む火消したちのモブシーンとか圧倒されるが、それ以外に、きちんと取材したという江戸時代の火消したちの仕事ぶりがなんとも興味深い。

「九十九」森田修平

森田修平は短編アニメーション作品「KAKURENBO」を作った人。突然の豪雨で山中で見つけた祠に逃げ込んだ男が付喪神に会うという典型的な怪談話。

他の作品とは異なり全編フルCGで作成されており、個人的にはそのCG臭?がどうにも気になった。なんか「ドラクエ8」っぽいというか、アニメーション映画を見ているというより、ゲームの画面を見ているような気がしてしまった。

ストーリー原案と付喪神などのデザインに造形作家の岸啓介が参加してる。

「GAMBO」安藤裕章

安藤裕章は大友克洋の「MEMORIES」や「STEAM BOY」でCGIを担当していた人とのこと。原案・脚本は「鮫肌男と桃尻女」や「茶の味」の石井克人、キャラクターデザインは「エヴァ」の貞本義行。

突如やってきて村を蹂躙する鬼(宇宙人であることが暗示されている)と、人身御供にされる少女の頼みを聞いた白いヒグマとの壮絶なバトルを描いたもの。物語性を極力廃し、ひたすら鬼とクマの格闘を描くというスタイルで、四作の中では一番好き嫌いが分かれそうな作品。個人的には一番好き。鬼の圧倒的な暴力性の描写が素晴らしい。筒井康隆の短編「死にかた」に出てくる鬼はきっとこんな感じだったんじゃないかと思った。

「武器よさらば」

ガンダムなどのメカニックデザインで知られるカトキハジメの初監督作品で良いのかな? 原作は大友克洋の同名短編。他3作が過去の日本を舞台にした作品なのに対して、本作だけは近未来の荒廃した日本が舞台のSF戦争ものでかなり浮いている印象。物語展開はほぼ原作に忠実ながら登場するプロテクタースーツや無人戦車などのデザインは現代的にリファイン(ここらへんはカトキハジメの真骨頂)、映像表現も今どきの戦争映画風。プロテクタースーツvs無人戦車の戦闘は文句なしに格好良い、流石に良く心得ているという感じ。ただ洗練されすぎて、原作どおりのあのオチがちょっと浮いてる感じがしないでもない。

キャラクターデザインはCANNABISこと田中達之。

2014/02/04

青空読書 11 「三角と四角」巖谷小波

青空文庫「三角と四角」巖谷小波

明治から大正期にかけての児童文学作家、巖谷小波が博文館の雑誌「幼年雑誌」1894年10月号に発表した童話。

幼児に向けて幾何学の学習を目的にした童話だが、登場人物が皆文房具という筒井康隆の「虚航船団」を思い出させる内容(もちろん本作の方が発表時期はうんと早いが)。尖った角を持つことが自慢の三角定規が、自分より角が一つ多い画板に嫉妬し、ついには画板の四隅の角を切り落としてしまうが、そこには意外なというか幾何学的には至極まっとうなオチが待っているというお話。今となっては古めかしい語り口のリズムが楽しい。ラスト「とうとう兜かぶとを脱いで降参しましたとわ、身のほど知らぬ大白痴おおたわけ。」というスパーンと切ったような感じも良い。